「売れてないのに子供いる芸人」に見るリアル

昨夜のアメトーーク3時間SP。レギュラーとなりつつある家電芸人、前回放送で話題を呼んだ運動神経悪い芸人と続く中で少しテイストの違うくくりが見られました。


売れてないのに子供いる芸人。

文字通り売れていないけれども子供がいるため、その経済的な苦労やそれゆえのあるあるネタを話す回。見ていて何かいつもと違う。違和感を感じる。その正体は何だろう…。



通常の放送であれば、日常の「プライベート」な話を「パブリック」なテレビという空間においてネタとして導入します。ここではあくまで話し手は「芸人」という属性=キャラクターを帯びているといえます。
しかしながら、今回の売れていないのに子供いる芸人では、その芸人というキャラクターをベースとしつつも、その中で「芸人であるお父さん」というプライベートにおける属性が表出していたように思いました。(特に終盤に近付くにつれそれが顕著に)

その前提では、日常の「プライベート」な話はネタではなくリアルとして導入される。それゆえに番組内で笑い(=ネタ)ではなく、感動(=リアル)が起きていたのではないかと思います。


おそらく、いつもと違う違和感の正体はこれかなぁ。今回のくくりでは「売れてないのに子供いる」という芸人ではなく、お父さんという属性が表出されるテーマであったため、そこでのトークはネタではなくリアルだったと。そんな感じがしました。



さて、そんな前提に立つとリアルな意味で今回出演された芸人さんにとっては重要な回でした。何せゴールデンですからね。

アメトーークのプロデューサーといえば加地倫三さん。番組内でも出演したことがあり、なかなかスマートな方。また、ロンドンハーツのプロデューサーでもあるバラエティ番組界の実力者。そんな加地さんが朝日新聞のTVダイアリーでこんなことを言っていました。


「出演者全員が爆笑を取ったとして、…出演者Aは5回使い、出演者Bは一回も使わなくすることも、編集するディレクター次第」
「それにより出演者の他の仕事に影響することもある」
「だからこそ、ディレクターには大きな責任がある。でもそこに気づかずに編集しているディレクターたちが山ほどいる」
「彼らの人生を背負っていると言っても過言ではない『編集』。本当に怖い」


このように芸人という仕事を左右する責任を自覚している加地さんならば、今回の売れてないのに子供いる芸人に対してはより慎重に編集をしたことは想像に難くない。
かつ、あわよくば彼らを救ってあげようと。そんな心も感じられます。加地さんが全て決められるわけではないでしょうが、このゴールデン枠での放送ということも加地さん含むテレビ朝日の愛であるように思います。だからこそ、最後画面に表示された「早く売れたらいいね。」は加地さんの心からの芸人に対するメッセージであるように感じられました。


今回のアメトーークはネタで埋め尽くされたテレビに、そんなリアルが表出されていた貴重な回だったような気がします。